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横浜地方裁判所 平成元年(ワ)1260号 判決 1990年7月18日

原告

中田政孝

ほか一名

被告

寺岡幸夫

主文

一  被告は、原告中田政孝に対し、金五〇万八四一〇円及びこれに対する昭和六三年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告東設工業株式会社に対し、金一五万二七五〇円及びこれに対する昭和六三年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の、その余を原告らの各負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告中田政孝(以下「原告中田」という。)に対し、金一六九万五九六二円及びこれに対する昭和六三年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告東設工業株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、金二四万円及びこれに対する昭和六三年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、左方の交差道路から進入してきた普通乗用自動車との衝突を避けようとして対向車線に進出し、その結果対向車と衝突し負傷した普通乗用自動車の運転者及び所有者が、交差道路から進入してきた普通乗用自動車の運転者に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事件である。

一  事故の発生

1  日時 昭和六三年三月二七日午前一一時四五分頃

2  場所 神奈川県大和市西鶴間五―三五〇六―一先路上(国道二四六線上、以下「本件事故現場」という)

3  加害車 普通乗用自動車(川崎五五や六八六六)

右運転者 被告

4  被害車 普通乗用自動車(相模五八す四九二三)

右運転者 原告中田

右所有者 原告会社

(以上の事実は当事者間に争いがない)

5  態様 本件事故現場の道路を直進していた被害車が、左方の交差道路から進入してきた加害車との衝突を避けるため急制動措置を講じた結果、対向車線に進出し、訴外菅沼春夫運転の普通乗用自動車(以下「対向車」という。)と衝突した。

(原告中田)

6  結果 原告中田は、頸椎捻挫、右背部・左腹部・右手部打撲等の傷害を負つた。

(甲一、四、六)

二  争点

1  原告中田及び被告の過失の存否及び過失相殺

(一) 原告らの主張

被告には、交差道路から本件事故現場の道路へ右折進行するに際し、一時停止義務及び右方の安全確認義務を怠つて進行した過失がある。

(二) 被告の主張

被告は、交差道路から本件事故現場の道路へ左折しようとして手前で一時停止し、右方の直進車に対する安全を十分に確認して進行したもので、何らの過失もない。本件事故は、原告中田のスピード違反、前方不注視、安全運転義務違反等の一方的過失により発生したものである。

仮に、被告に過失があるとしても、原告中田にも重大な過失があるから、原告らの損害について過失相殺すべきである。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  原告中田及び被告の過失の存否及び過失相殺

1  証拠(乙一、証人菅沼春夫、原告中田、被告、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場の状況は別紙交通事故現場見取図記載のとおりであり、本件事故現場は、厚木方面から横浜方面に通ずる国道二四六号線道路(以下「甲道路」という)と北方のひばりが丘に通ずる道路(以下「乙道路」という)とがT字型に交わる、交通整備の行われていない交差点(以下「本件交差点」という)よりやや東方の甲道路上である。

甲道路は、片側二車線、車道幅員各四・五メートル(各車線の左端から一メートルの外側線が設けられている)、東行車線の左側に二メートル、西行車線の左側に一・九メートルの歩道があるアスフアルト舗装された道路で、道路中央に黄色の実線でセンターラインが引かれ、最高速度が時速四〇キロメートルに規制されており、事故現場付近は、ほぼ直線かつ平坦であるため前方に対する見通しは良好である。しかし、当時本件交差点の北西角付近に道路工事の立看板が置かれていたため、東行車線からは、乙道路から甲道路に進入する車両の車体の一部が立看板に遮られ、その動静が十分に確認できない状態であつた。一方、乙道路は、車道幅員三・三メートルの道路で、乙道路から甲道路に進入する場合、立看板によつて部分的に甲道路の右方に対する見通しが遮られる状態にあつた。

(二) 被告は、加害車を運転して乙道路から甲道路へ左折進入するに際し、本件交差点手前で右前方に一旦、被害車を認めたあと、ゆつくりした速度で同交差点に進入し、運転席が道路工事の右立看板の陰になり、甲道路の右方が見通せなくなつたため、運転席から右方の一部が見通せる位置付近まで加害車を進出させたところ、甲道路を直進してくる被害車を右方約二一・六メートルの地点に認めたので、ブレーキをかけ、約一・一メートル進行して停止し、衝突を免れた。

(三) 一方原告中田は、被害車を運転し、甲道路を横浜方面に向け時速約六〇キロメートルを超える速度で進行中、左前方の本件交差点の手前付近に、乙道路から甲道路に進入してくる加害車を認めたあと、前記立看板付近から東行車線の内側まで前部を進出させてきた加害車を、左前方約二一・六メートルの地点に認め、衝突の危険を感じて、急ブレーキをかけると共にハンドルを右に切り、加害車の前部を通過して衝突を免れたが、右回避操作の結果、対向車線に進出し、対向車の前部右側に自車左前部を衝突させ、ほぼ一回転して停止した。

2  以上の認定事実によれば、被告が、乙道路から甲道路へ左折進入するに際し、本件交差点の北西角付近に右方の見通しを遮る立看板が設置されていたのであるから、本件交差点手前で一時停止し、直進車に対する安全を確認して進行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然甲道路に進入したため、甲道路を直進してきた原告中田が危険を感じ、加害車との衝突を避けようとして対向車と衝突したものというべきであり、本件事故は、被告の右過失により発生したものと認めるのが相当である。

3  一方、前記1で認定した事実によれば、原告中田にも甲道路を直進するに際し、制限速度を大幅に超える速度で進行し、甲道路に進入しようとする加害車の動静を注視しないで漫然進行した過失があるというべきである。

そして、右認定の被告及び原告中田の過失の内容、程度その他諸般の事情を考慮すると、双方の過失割合は、原告中田三五パーセント、被告六五パーセントと認めるのが相当である。

4  以上によれば、被告は民法七〇九条により、後記原告らの損害を賠償すべき責任がある。

二  損害額

1  原告中田関係

原告中田は、本件事故による傷害の治療のため、昭和六三年三月二七日及び同月二八日の二日間大和成和病院に通院し、同月二九日から同九月二七日まで加藤接骨院通院し(実日数八八日)、さらに同年九月一六日から同年一一月二五日まで熊倉整形外科病院に通院し(実日数三九日)て治療を受けた。

(甲一、三、四、六)

(一) 治療関係費 六二万二五四二円

(1) 大和成和病院分 四万三〇七五円

(甲二の1)

(2) 加藤接骨院分 五六万三〇〇〇円

(甲五)

(3) 熊倉整形外科病院分 一万六四六七円

(甲七、一一の1ないし3、弁論の全趣旨)

(二) 休業損害 六一万三三二〇円

原告中田は、本件事故当時、原告会社の代表取締役として稼働し、昭和六三年一月から三月まで月額平均四六万円の収入、一日あたり一万五三三三円(四六万円÷三〇日=一万五三三三円、円未満切捨)の収入を得ていたが、本件事故により、一二九日間通院しており、少なくとも四〇日間休業せざるを得なかつたというべきである(甲九、原告中田、弁論の全趣旨)。そこで右の期間における休業損害を求めると、次のとおり六一万三三二〇円となる。

一万五三三三円×四〇日=六一万三三二〇円

(三) 慰謝料 九〇万円

本件事故の態様、原告中田の傷害の部位・程度、治療の経過その他諸般の事情を考慮すると、原告中田の慰謝料としては、九〇万円をもつて相当と認める。

(四) 合計額 二一三万五八六二円

右(一)ないし(三)の合計額

なお、原告中田は、後遺障害に基づく損害賠償として逸失利益及び慰謝料合計五〇万円を請求し、原告中田には、項部痛、肩部痛が残存し(甲六)、また現在でも右手第三指の関節に痛みを訴えているが、右症状の程度では損害賠償の対象となる後遺症と認めることができず、他にこのような後遺症を認めるに足る証拠もないから、この点の原告中田の請求は理由がない。

2  原告会社関係

車両代 二三万五〇〇〇円

被害車は、昭和五六年型トヨタコロナリフトバツク一六〇〇DX車で、原告会社の所有であつたところ、本件事故により、修理不能な程度に破損し、事故当時の時価は、二三万五〇〇〇円程度であつた(甲一〇の1、2、乙一、弁論の全趣旨)。

3  過失相殺

前記一の3で認定した過失割合に従い、原告らの前記各損害賠償請求権の全額(原告中田について二一三万五八六二円、原告会社について二三万五〇〇〇円)から、各三五パーセントを減額すると、原告中田について一三八万八三一〇円(円未満切捨)、原告会社について一五万二七五〇円となる。

4  損害の填補

原告中田は自賠責保険から八七万九九〇〇円の支払を受けている(当事者間に争いがない)ので、原告中田の3の損害額から控除すると、原告中田の残損害額は五〇万八四一〇円となる。

三  結論

原告中田の認容額は五〇万八四一〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員となり、原告会社の認容額は一五万二七五〇円及びこれに対する右同日から年五分の割合による金員となる。

(裁判官 前田博之)

別紙 <省略>

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